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名古屋地方裁判所豊橋支部 平成8年(ワ)220号 判決 1999年5月28日

A事件原告、C事件原告、D事件原告、E事件原告

甲野花子

A事件原告、B事件原告、C事件原告、D事件原告

乙川太郎

B事件原告

有限会社丙山興業

右代表者取締役

甲野花子

右原告三名訴訟代理人弁護士

小林修

A事件被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

勢山廣直

右訴訟代理人弁護士

纐纈和義

波田野浩平

細井土夫

後藤和男

田中登

B事件被告、E事件被告

エイアイユーインシュアランスカンパニー

(エイアイユー保険会社)

右代表者代表取締役

トーマス・アール・テイジオ

日本における代表者

吉村文吾

右訴訟代理人弁護士

藤田哲

右訴訟復代理人弁護士

鈴木進也

C事件被告

三井海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

井口武雄

右訴訟代理人弁護士

大塚英男

D事件被告

同和火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

岡崎真雄

右訴訟代理人弁護士

北澤恒雄

主文

(A事件について)

一  原告甲野花子及び原告乙川太郎の被告東京海上火災保険株式会社に対する本件請求をいずれも棄却する。

(B事件について)

二 原告乙川太郎及び原告有限会社丙山興業の被告エイアイユーインシュアランスカンパニーに対する本件請求をいずれも棄却する。

(C事件について)

三 原告甲野花子及び原告乙川太郎の被告三井海上火災保険株式会社に対する本件請求をいずれも棄却する。

(D事件について)

四 原告甲野花子及び原告乙川太郎の被告同和火災海上保険株式会社に対する本件請求をいずれも棄却する。

(E事件について)

五 原告甲野花子の被告エイアイユーインシュアランスカンパニーに対する本件請求を棄却する。

(訴訟費用について)

六 訴訟費用は、全事件を通じて、原告甲野花子、原告乙川太郎及び原告有限会社丙山興業の負担とする。

事実及び理由

(以下においては、A事件原告、C事件原告、D事件原告及びE事件原告甲野花子を単に「原告甲野」と、A事件原告、B事件原告、C事件原告及びD事件原告乙川太郎を単に「原告乙川」と、B事件原告有限会社丙山興業を単に「原告会社」と、A事件被告東京海上火災保険株式会社を単に「被告東京海上」と、B事件被告及びE事件被告エイアイユーインシュアランスカンパニーを単に「被告エイアイユー」と、C事件被告三井海上火災保険株式会社を単に「被告三井海上」と、D事件被告同和火災海上保険株式会社を単に「被告同和火災」とそれぞれ略称する。)

第一  原告らの請求

一  A事件(原告甲野、原告乙川)

1  被告東京海上は、原告甲野に対し、金六〇六万円及びこれに対する平成六年六月八日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告東京海上は、原告乙川に対し、金五八二万円及びこれに対する平成六年六月八日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―保険契約に基づく保険金請求権及び商事法定利率による遅延損害金請求権。】

二  B事件(原告乙川、原告会社)

1  被告エイアイユーは、原告乙川に対し、金二一七万一〇〇〇円及びこれに対する平成六年五月二六日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告エイアイユーは、原告会社に対し、金三三五万三〇〇〇円及びこれに対する平成六年五月二六日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―保険契約に基づく保険金請求権及び商事法定利率による遅延損害金請求権。】

三  C事件(原告甲野、原告乙川)

1  被告三井海上は、原告甲野に対し、金二〇二万円及びこれに対する平成六年五月一七日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告三井海上は、原告乙川に対し、金一九四万円及びこれに対する平成六年五月一七日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―保険契約に基づく保険金請求権及び商事法定利率による遅延損害金請求権。】

四  D事件(原告甲野、原告乙川)

1  被告同和火災は、原告甲野に対し、金二〇二万円及びこれに対する平成六年五月一九日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告同和火災は、原告乙川に対し、金一九四万円及びこれに対する平成六年五月一九日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―保険契約に基づく保険金請求権及び商事法定利率による遅延損害金請求権。】

五  E事件(原告甲野)

被告エイアイユーは、原告甲野に対し、金二〇二万円及びこれに対する平成六年五月二六日(弁済期日の後の日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

【訴訟物―保険契約に基づく保険金請求権及び商事法定利率による遅延損害金請求権。】

第二  事案の概要

本件は、被告らとの間で各種の保険契約を締結していた原告らが、原告甲野が自動車を運転していて交通事故(追突事故)を起こし、保険事故が発生したとして、右保険契約に基づき、被告らに対して、各種の保険金を請求した事案である。

一  争いのない事実(弁論の全趣旨による認定を含む。)

1  保険契約の締結

(一)A事件

(1) 原告甲野は、被告東京海上との間において、次のような内容の三件の保険契約を締結した。

(以下「本件1ないし3保険契約」という。)

ア 本件1保険契約(平成四年九月二九日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 積立普通傷害保険

③ 保険期間 平成四年九月二九日から三年間

④ 被保険者 甲野花子(原告甲野)

イ 本件2保険契約(平成五年九月八日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 普通傷害保険

③ 保険期間 平成五年九月八日から一年間

④ 被保険者 甲野花子(原告甲野)

ウ 本件3保険契約(平成五年三月七日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 PAP自動車総合保険

③ 保険期間 平成五年三月七日から一年間

④ 被保険自動車 豊橋五五て<番号略>

(2) 原告乙川は、被告東京海上との間において、次のような内容の二件の保険契約を締結した。

(以下「本件4及び5保険契約」という。)

エ 本件4保険契約(平成四年九月二九日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 積立普通傷害保険

③ 保険期間 平成四年九月二九日から三年間

④ 被保険者 乙川太郎(原告乙川)

オ 本件5保険契約(平成五年九月八日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 普通傷害保険

③ 保険期間 平成五年九月八日から一年間

④ 被保険者 乙川太郎(原告乙川)

(二) B事件

(1) 原告乙川は、被告エイアイユーとの間において、次のような内容の保険契約を締結した。

(以下「本件6保険契約」という。)

カ 本件6保険契約(平成元年六月一日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 普通傷害保険

③ 保険期間 平成五年八月一日から一年間

④ 被保険者 乙川太郎(原告乙川)

⑤ 保険契約者 乙川太郎(原告乙川)

(2) 原告会社は、被告エイアイユーとの間において、次のような内容の二件の保険契約を締結した。

(以下「本件7及び8保険契約」という。)

キ 本件7保険契約(平成元年一二月一日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 普通傷害保険

③ 保険期間 平成五年八月一日から一年間

④ 被保険者 甲野花子(原告甲野)

⑤ 保険契約者 有限会社丙山興業(原告会社)

ク 本件8保険契約(平成五年五月一九日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 交通事故傷害保険

③ 保険期間 平成五年五月一九日から一年間

④ 被保険者

甲野花子(原告甲野)

乙川太郎(原告乙川)

⑤ 保険契約者 有限会社丙山興業(原告会社)

(三) C事件

原告会社は、被告三井海上との間において、次のような内容の保険契約を締結した。

(以下「本件9保険契約」という。)

ケ 本件9保険契約(平成四年一〇月七日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 交通事故傷害保険

③ 保険期間 平成四年一〇月七日から平成五年一〇月七日まで

④ 被保険者

甲野花子(原告甲野)

乙川太郎(原告乙川)

訴外菊田真佐恵

(四) D事件

原告乙川は、被告同和火災との間において、次のような内容の保険契約を締結した。

(以下「本件10保険契約」という。)

コ 本件10保険契約(平成五年九月一五日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 交通事故傷害保険

③ 保険期間 平成五年九月一五日から平成六年九月一五日まで

④ 被保険者

甲野花子(原告甲野)

乙川太郎(原告乙川)

外三名

(五) E事件

原告会社は、被告エイアイユーとの間において、次のような内容の保険契約を締結した。

(以下「本件11保険契約」という。)

サ 本件11保険契約(平成五年五月一九日締結)

① 証券番号 <番号略>

② 保険種類 交通事故傷害保険

③ 保険期間 平成五年五月一九日から一年間

④ 被保険者

甲野花子(原告甲野)

乙川太郎(原告乙川)

⑤ 保険契約者 有限会社丙山興業(原告会社)

2  事故の発生

別紙事故目録記載のとおり。

(以下「本件事故」という。)

二  原告らの主張

1  本件事故による原告らの治療

原告らは、本件事故のために、次のとおりの傷害を負い、その治療を受けた。

(一) 原告甲野

頸椎捻挫、外傷性頸腕症候群、頭部胸部腰部挫傷により、入院八〇日、通院九一日の治療。

(1) 武田医院

通院 平成五年一〇月七日

(2) 権田脳神経外科

入院 平成五年一〇月七日から同月一二日まで

(3) 長屋病院

入院 平成五年一〇月一二日から同年一二月二五日まで

通院 平成五年一二月二六日から平成六年四月二一日まで

(二) 原告乙川

頸椎捻挫、外傷性頸肩腕症候群、頭部胸部腰部挫傷により、入院七四日間、通院九二日間の治療。

(1) 武田医院

通院 平成五年一〇月七日

(2) 権田脳神経外科

入院 平成五年一〇月七日から同月一二日まで

(3) 長屋病院

入院 平成五年一〇月一二日から同年一二月二〇日まで

通院 平成五年一二月二一日から平成六年四月二一日まで

2  本件各保険契約の内容

(一) A事件

(1) 本件1、2、4及び5の各保険契約は、交通事故により被保険者が傷害を負った場合、その負傷した被保険者に対して、入院一日につき金一万五〇〇〇円、通院一日につき金一万円が、事故日から一八〇日を限度として、保険金として支払われることを内容とする。

(2) 本件3保険契約は、交通事故により搭乗者が傷害を負った場合、その負傷した各搭乗者に対して、入院一日につき金一万五〇〇〇円、通院一日につき金一万円が、事故日から一八〇日を限度として、保険金として支払われることを内容とする。

(二) B事件

(1) 本件6保険契約は、交通事故により被保険者が傷害を負った場合、保険契約者に対して、入院一日につき金二〇〇〇円、通院一日につき金一〇〇〇円が、事故日から一八〇日を限度として、保険金として支払われることを内容とする。

(2) 本件7保険契約は、交通事故により被保険者が傷害を負った場合、保険契約者に対して、入院一日につき金一万円、通院一日につき金六五〇〇円が、事故日から一八〇日を限度として、保険金として支払われることを内容とする。

(3) 本件8保険契約は、交通事故により被保険者が傷害を負った場合、保険契約者に対して、入院一日につき金一万五〇〇〇円、通院一日につき金一万円が、事故日から一八〇日を限度として、保険金として支払われることを内容とする。

(三) C事件

本件9保険契約は、交通事故により被保険者が傷害を負った場合、その負傷した被保険者に対して、入院一日につき金一万五〇〇〇円、通院一日につき金一万円が、事故日から一八〇日を限度として、保険金として支払われることを内容とする。

(四) D事件 本件10保険契約は、交通事故により被保険者が傷害を負った場合、その負傷した被保険者に対して、入院一日につき金一万五〇〇〇円、通院一日につき金一万円が、事故日から一八〇日を限度として、保険金として支払われることを内容とする。

(五) E事件

本件11保険契約は、交通事故により被保険者が傷害を負った場合、保険契約者に対して、入院一日につき金一万五〇〇〇円、通院一日につき金一万円が、事故日から一八〇日を限度として、保険金として支払われることを内容とする。

3  原告らの保険金額

(一) A事件

(1) 原告甲野 合計金六〇六万円

ア 本件1保険契約により

金二〇二万円

イ 本件2保険契約により

金二〇二万円

ウ 本件3保険契約により

金二〇二万円

(いずれも一万五〇〇〇円×八〇日+一万円×八二日=二〇二万円)

(2) 原告乙川 合計金五八二万円

ア 本件3保険契約により

金一九四万円

イ 本件4保険契約により

金一九四万円

ウ 本件5保険契約により

金一九四万円

(いずれも一万五〇〇〇円×七四日+一万円×八三日=一九四万円)

(二) B事件

(1) 原告会社 合計金三三五万三〇〇〇〇円

ア 本件7保険契約により

金一三三万三〇〇〇円

(一万円×八〇日+六五〇〇円×八二日=一三三万三〇〇〇円)

イ 本件8保険契約により

金二〇二万円

(一万五〇〇〇円×八〇日+一万円×八二日=二〇二万円)

(2) 原告乙川

合計金二一七万一〇〇〇円

ア 本件8保険契約により

金一九四万円

(一万五〇〇〇円×七四日+一万円×八三日=一九四万円)

イ 本件6保険契約により

金二三万一〇〇〇円

(二〇〇〇円×七四日+一〇〇〇円×八三日=二三万一〇〇〇円)

(三) C事件

(1) 原告甲野 金二〇二万円

本件9保険契約により

金二〇二万円

(一万五〇〇〇円×八〇日+一万円×八二日=二〇二万円)

(2) 原告乙川 金一九四万円

本件9保険契約により

金一九四万円

(一万五〇〇〇円×七四日+一万円×八三日=一九四万円)

(四) D事件

(1) 原告甲野 金二〇二万円

本件10保険契約により

金二〇二万円

(一万五〇〇〇円×八〇日+一万円×八二日=二〇二万円)

(2) 原告乙川 金一九四万円

本件10保険契約により

金一九四万円

(一万五〇〇〇円×七四日+一万円×八三日=一九四万円)

(五) E事件

(1) 原告甲野 金二〇二万円

本件11保険契約により

金二〇二万円

(一万五〇〇〇円×八〇日+一万円×八二日=二〇二万円)

4  請求、支払拒絶及びまとめ

(一) A事件

(1) 原告甲野及び原告乙川は、被告東京海上に対して、前記(一)の(1)及び(2)の保険金の支払を請求したが、被告東京海上は、平成六年六月八日付け書面で右支払を拒絶した。

(2)① 原告甲野は、被告東京海上に対して、本件1、2及び3保険契約に基づき、保険金合計金六〇六万円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年六月八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

② 原告乙川は、被告東京海上に対して、本件3、4及び5保険契約に基づき、保険金合計金五八二万円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年六月八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) B事件

(1) 原告会社及び原告乙川は、被告エイアイユーに対して、前記(二)の(1)及び(2)の保険金の支払を請求したが、被告エイアイユーは、平成六年五月二六日付け書面で右支払を拒絶した。

(2)① 原告会社は、被告エイアイユーに対して、本件7及び8保険契約に基づき、保険金合計金三三五万三〇〇〇円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年五月二六日から支払済みまで商事法定利率六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

② 原告乙川は、被告エイアイユー、に対して、本件6及び8保険契約に基づき、保険金合計金二一七万一〇〇〇円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年五月二六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(三) C事件

(1) 原告甲野及び原告乙川は、被告三井海上に対して、前記(三)の(1)及び(2)の保険金の支払を請求したが、被告三井海上は、平成六年五月一七日付け書面で右支払を拒絶した。

(2)① 原告甲野は、被告三井海上に対して、本件9保険契約に基づき、保険金合計金二〇二万円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年五月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

② 原告乙川は、被告三井海上に対して、本件9保険契約に基づき、保険金合計金一九四万円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年五月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(四) D事件

(1) 原告甲野及び原告乙川は、被告同和火災に対して、前記(四)の(1)及び(2)の保険金の支払を請求したが、被告同和火災は、平成六年五月一九日付け書面で右支払を拒絶した。

(2)① 原告甲野は、被告同和火災に対して、本件10保険契約に基づき、保険金合計金二〇二万円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年五月一九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

② 原告乙川は、被告同和火災に対して、本件10保険契約に基づき、保険金合計金一九四万円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年五月一九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(五) E事件

(1) 原告甲野は、被告エイアイユーに対して、前記(五)の(1)の保険金の支払を請求したが、被告エイアイユーは、平成六年五月二六日付け書面で右支払を拒絶した。

(2) 原告甲野は、被告エイアイユーに対して、本件11保険契約に基づき、保険金合計金二〇二万円及びこれに対する弁済期日の後の日である平成六年五月二六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

5  本件事故について

本件事故は、原告らが甲車でパチンコ店に行ったところ、同店が休みだったことから、他の店に向かおうとしたときに発生したものである。甲車を運転していた原告甲野は、別のパチンコ店の場所について、後部座席にいた訴外松下と話し、不注意で後ろを振り向いたために、前方不注視となり、赤信号で停車していた乙車の発見が遅れて同車に追突したものである。したがって、本件事故は原告甲野の過失により偶然に発生したものであり、原告甲野の故意により発生したものではない。

6  重複保険について

(一) 原告甲野は、本件各保険契約の加入(締結)手続をしたが、それらはすべて勧誘を受け、あるいは知人に紹介されて言われるままに加入したものである。そして、いずれの加入の場合も、原告甲野は、重複保険に関して確認されたことはなく、そもそも重複保険に問題があることすら認識していなかったものである。

そして、原告らは、原告らに関する損害保険の管理・保険金請求の手続は、主に被告東京海上と被告エイアイユーの富安代理店に事実上委ねていたものであり、したがって、富安代理店は、原告らが被告らの損害保険に加入していたことは知っていたのである。

(二) 原告らは、約款に定める告知義務の存在を全く認識していなかったので、原告らが、あえて告知義務を怠ったということはない。さらに原告らが、不法に保険金を得る目的をもって本件各保険に加入したという証拠はない。したがって、約款上の通知義務違反を理由とする免責についての被告らの主張は否定されなければならない。

三  被告らの主張

1  通知義務・告知義務違反

(一) 被告東京海上

(1) 被告東京海上が、原告甲野との間で締結した本件1及び2保険契約、原告乙川との間で締結した本件4及び5保険契約において、原告両名は、保険契約を締結する際、既に他の保険会社との間で傷害保険契約を締結している場合には、この事実を被告東京海上に対して告げる義務を負っていた(告知義務・傷害保険普通保険約款第一〇条第一項)。

また、本件各保険契約において、原告両名は、被告東京海上と保険契約を締結後、他の保険会社との間で更に重複して傷害保険契約を締結した場合には、この事実を被告東京海上に通知する義務を負っていた(通知義務・傷害保険普通保険約款第一二条、第一八条第一項)。

(2) しかしながら、

① 原告甲野は、被告東京海上に対して、

(a) 本件1保険契約につき、その契約締結の際、本件7保険契約を告知せず、また、その締結後、本件8、9及び10の各保険契約につき通知をしなかった。

(b) 本件2保険契約につき、その契約締結の際、本件7、8及び9の各保険契約を告知せず、また、その締結後、本件10保険契約につき通知をしなかった。

② 原告乙川は、被告東京海上に対して、

(a) 本件4保険契約につき、その契約締結の際、本件6保険契約を告知せず、また、その締結後、本件8、9及び10の各保険契約につき通知をしなかった。

(b) 本件5保険契約につき、その契約締結の際、本件6、8及び9の各保険契約を告知せず、また、その締結後、本件10保険契約につき通知をしなかった。

(3) そこで、被告東京海上は、原告両名に対して、右告知義務・通知義務違反を理由に、本件1及び2保険契約、本件4及び5保険契約につき、平成六年六月八日付け、同年同月九日付け到達の内容証明郵便により解除の意思表示をした。

したがって、被告東京海上は、本件1及び2保険契約、本件4及び5保険契約に基づく保険金については、その支払義務を負わない(傷害保険普通保険約款第一〇条第四項、第一八条第四項)。

(二) 被告エイアイユー

(1) 重複保険契約の告知義務違反による契約解除

(a) 原告会社は、被告エイアイユーとの間で、被保険者を原告甲野及び原告乙川とする本件8及び11保険契約を締結した。

被告エイアイユーの保険代理店の担当者は、右保険契約を締結するに際し、原告甲野に対して、質問表によって他保険の有無について告知を求めた。

ところが、原告甲野は、本件9保険契約についてはその締結の事実を明らかにしたものの、被保険者を原告甲野及び原告乙川とする本件1、3及び4保険契約を締結していたことは、被告エイアイユーに告げなかった。

(b) そこで、被告エイアイユーは、交通事故傷害保険普通保険約款第一一条に基づき、原告会社に対して、平成六年五月二七日到達の書面をもって、本件8及び11保険契約を解除する旨の意思表示をした。したがって、被告エイアイユーは、本件8及び11保険契約につき、その支払義務を負わない。

(2) 重複保険の通知義務違反による契約解除

(a) 原告会社は、被告エイアイユーとの間で、被保険者を原告甲野とする本件7保険契約を締結した。

また、原告乙川は、被告エイアイユーとの間で、被保険者を原告乙川とする本件6保険契約を締結した。

さらに、原告会社は、前記のとおり、被告エイアイユーとの間で、被保険者を原告甲野及び原告乙川とする本件8及び11保険契約を締結した。

(b) 原告甲野は、平成四年八月一日、本件7保険契約を締結した後、あらかじめ被告エイアイユーに申し出ることなく、重ねて原告甲野を保険契約者または被保険者とする本件1、2、3、9及び10保険契約を締結した。

また、原告乙川は、平成四年八月一日、本件6保険契約を締結した後、あらかじめ被告エイアイユーに申し出ることなく、重ねて原告乙川を保険契約者または被保険者とする本件3、4、5、9及び10保険契約を締結した。

さらに、原告甲野は、平成五年五月一九日、本件8及び11保険契約を締結した後、あらかじめ被告エイアイユーに申し出ることなく、2、5及び10保険契約を締結した。

(c) そこで、被告エイアイユーは、普通傷害保険普通保険約款第一八条及び交通事故傷害保険普通保険約款第一七条に基づき、原告乙川及び原告会社に対して、平成六年五月二七日到達の書面をもって、本件6、7、8及び11保険契約を解除する旨の意思表示をした。

したがって、被告エイアイユーは、本件6、7、8及び11保険契約につき、その支払義務を負わない。

(3) 事故通知義務違反による免責

(a) 本件6及び7保険契約について適用のある普通傷害保険普通保険約款第二一条第一項及び本件8及び11保険契約について適用のある交通事故傷害保険普通保険約款第二〇条第一項には、「被保険者が第一条の傷害を被ったときは、保険契約者、被保険者または保険金を受け取るべき者(これらの者の代理人を含みます。以下本条において同様とします。)は、その原因となった事故の日からその日を含めて三〇日以内に事故発生の状況および傷害の程度を当会社に書面により通知しなければなりません。」と、また前記各条項の三項には、「保険契約者、被保険者または保険金を受け取るべき者が当会社の認める正当な理由がなく前二項の規定に違反したとき、またはその通知もしくは説明につき知っている事実を告げずもしくは不実のことを告げたときは、当会社は、保険金を支払いません。」とそれぞれ規定している。

(b) 本件各保険契約の保険契約者である原告ら及び被保険者である原告甲野は、本件事故の発生の日から三〇日以内に事故発生状況及び傷害の程度を被告エイアイユーに通知しなかった。

(三) 被告三井海上

基本的主張は、被告東京海上及び被告エイアイユーと同じ。

(1) 告知義務違反・通知義務違反

(a) 原告らの前記の約款第一一条一項に基づく告知義務違反については、原告らは、本件1、4、6及び7の保険契約締結の事実を告知しなかったものである。

(b) また、原告らの前記約款第一三条に基づく重複保険契約に関する通知義務違反については、原告らは、本件2、3、5、8、10及び11の各保険契約締結の事実を告知しなかったものである。

以上は、いずれも約款上、保険者による解除事由に該当し、被告三井海上は、事故報告を受けた平成六年五月九日から八日後の平成六年五月一七日付け通知書により、本件9保険契約を解除したから、本件の保険金支払の義務は存しない。

(2) 事故通知の懈怠

被告三井海上が、原告らから本件事故の通知を受けたのは、本件事故日である平成五年一〇月七日から七か月を経過した平成六年五月九日であった。したがって、原告らの本件事故通知の懈怠は甚だしく、被告三井海上に対する関係では信義に反するものといわざるをえない。

よって、被告三井海上は、前記の約款第二〇条第三項に基づき、本件の保険金支払の義務は存しない。

(四) 被告同和火災

基本的主張は、被告東京海上及び被告エイアイユーと同じ。

(1) 原告らについては、いずれも本件10保険契約に先立ち、「身体の傷害に対して保険金を支払うべき他の保険契約(重複保険契約)」が多数(本件1ないし9保険契約及び本件11保険契約)締結されていた。しかし、本件10保険契約締結の際、保険契約者原告乙川は、故意または重過失により右重複保険契約につきこれを被告同和火災に対して告知しなかった。

(2) よって、被告同和火災は、原告らに対して、平成六年五月一九日付け書面により、本件10保険契約を解除した。

2  故意の事故招致

原告両名が請求する各保険金は、「被保険者が急激かつ外来の事故によってその身体に被った傷害」に対して、契約所定の保険金額が支払われるものである(傷害保険普通保険約款第一条第一項)。

しかし、本件においては、本件事故としての不審性、本件事故前の必要性を超えた不自然な保険への集中加入、しかも比較的軽微な交通事故の発生を念頭においた保険への加入状況、さらに、本件事故の発生時期が、自らまた子供の保険事故により保険金を取得した(しようとしていた)直後の事故であること、本件事故後の入通院の不審性等からすると、本件事故は、「急激かつ外来の事故」ではなく、原告らが、故意に本件事故を招致したものとみるほかなく、原告らの本件保険金請求は許されない。

3  公序良俗違反

本件各保険契約は、公序良俗に反するもので、民法九〇条により無効というべく、被告らが保険金支払義務を負うことはない。

すなわち、本件各保険契約は、原告らにおいて、保険事故を故意に招致し、または偶然的な事故に乗じて被害を実際より大きく仮装することによって不法に保険金を取得しようとする目的で締結されたものと推認される。

保険契約は、偶然の保険事故の発生により保険者の保険金給付義務が発生する射倖契約であり、保険事故が発生した場合、被保険者は比較的少額の保険料の支払によって多額の保険金を受領できることになるが、保険事故はその発生不発生または発生の時期が偶然に支配されるという前提があって初めて成り立っているものである。

原告らのような不法な利得を得る目的で保険契約を締結する行為は、保険契約のこの性質ないし構造を悪用するものであって、保険制度の本質を破壊するものであるから、右目的で締結された保険契約は公序良俗に反するものとして、民法九〇条により無効というべきである。

4  詐欺無効

本件の各保険契約の約款(傷害保険普通保険約款第一五条第一項、交通事故傷害保険普通保険約款第一四条第一項、自動車総合保険普通保険約款第六章第九条第一項)においては、保険契約の締結に際し、保険契約者、被保険者等に詐欺の行為があったときは保険契約は無効であると規定する。

原告らは、本件各保険契約締結当時、保険事故を故意に招致し、もしくは保険事故を偽装し、または偶然的な事故に乗じて被害を実際より大きく仮装することによって不法に保険金を取得する目的を有しながら、かかる意図あることを秘し、被告らにおいてこれを知っていたならば到底契約締結に応じないと知りつつ、保険制度本来の目的である偶然の保険事故発生に備えるもののごとく装って保険契約締結の申込をなし、保険者にそのように誤信させ、その誤信に基づいて保険契約締結を承諾させたものであるから、前記各保険約款にいう詐欺による契約締結にあたり、本件各保険契約はいずれも無効というべきである。

したがって、被告らが保険金支払義務を負うことはない。

5  危険著増による契約の失効

(一) 商法上、保険期間中に保険契約者または被保険者の責めに帰すべき事由により危険が著しく増加したときは保険契約が失効する旨規定されている(商法第六五六条)。

右にいう危険は、道徳危険を含むものと解すべきである。なぜなら、危険著増とは、著増した危険が契約締結時に存在したならば保険者が契約を締結しなかったかあるいはより高額の保険料をとらない限り保険を引き受けなかったと思われる程度の危険の増加が契約締結後出現することをいうものと解されるが、道徳危険が著増した場合、保険契約者側の不信度が著しく増大している状態であり、それが、保険契約締結時に存在したならば、保険者としては契約を締結しなかったもので、保険者を適切に保護すべき必要があり、他方、道徳危険の存する場合には、保険契約に強く要求される善意契約性からみて、保険契約者も契約利益を奪われてもやむをえないものというべきだからである。

(二) 原告らは、平成五年九月一五日までに、被告らとの間で自動車総合保険のほか、三つの普通傷害保険契約(一つの積立傷害保険を含む。)と二つの交通事故傷害保険を締結していたところであるが、交通事故を故意に招致しもしくは交通事故を偽装して長期の入通院をしたうえで本件各保険契約に基づく保険金を取得しようと企図し、さらに同年九月三〇日に簡易生命保険に加入し、同年一〇月七日に本件事故を惹起させたものである。

本件各保険契約については、遅くとも原告らが本件事故の直前に簡易生命保険に加入した時点において、原告らの保険金不正取得の目的が明らかになり、保険事故発生の危険が著増したものというべく、右事情が判明していれば、被告らが本件各保険契約を締結しなかったことが明らかであるから、本件各保険契約は遅くとも平成五年九月三〇日には失効したものというべきであり、被告らが保険金支払義務を負うことはない。

6  重大事由による特別解約

(一) 保険契約は、継続的契約関係であり、民法、商法上継続的契約においてやむをえない事由がある場合に契約の一方当事者に即時解約権が認められ(民法六二六条、六五一条、六七八条、商法五〇条二項、五三九条二項)、また判例上継続的保証、賃貸借、使用貸借について信頼関係破壊を理由とする即時解約権が認められているところであるが、射倖契約である保険契約においては特に契約当事者間の信頼関係の維持が重要な要素となるのであり、保険契約者等が故意に保険事故を招致したり、保険事故を偽装したりするなど、保険契約者側に保険者に対する背信行為がある場合には、保険者は、その一方的意思表示により保険契約者との間の保険契約を解除できると解すべきである。

右解約権は、「重大事由による特別解約権」といわれる。

(二) 原告らは、本件各保険契約につき、保険事故を故意に招致し、もしくは保険事故を偽装し、または偶然的な事故に乗じて被害を実際より大きく仮装することによって不法に保険金を取得する目的を有していたものであり、これが被告らとの間の信頼関係を破壊する背信的行為であることは明らかであり、被告らは、重大事由による特別解約権を有するというべきである。

(三) 右解約については、特別解約権による解除について遡及効を認めないとすれば、保険者を背信的な保険契約者等の不正請求から将来に向かって開放することはできるが、現在の不正請求については事故招致等を立証できない限り免責を主張しえないという不都合な結果を生ずることから、保険者は、その選択により、信頼関係破壊の事実の発生のときに遡って契約の効力を失わせることができると解すべきである。

そこで、被告らは、原告らの背信的行為を理由に、原告らとの間の本件各保険契約を本件事故が発生した日に遡って解除する。

したがって、被告らには保険金支払義務はない。

7  権利の濫用

原告らの本件各保険請求は、多数の保険契約を締結のうえ保険事故を故意に招致し、もしくは保険事故を偽装し、または偶然的な事故に乗じて被害を実際より大きく仮装することによって、保険契約を悪用し、不正に保険金を取得しようとする目的にでるものである。善意契約性が要請される保険契約において、右のような原告らの請求が許される道理はなく、原告らの本件保険金請求は、信義誠実の原則に反し権利濫用にあたるものとして許されない。

8  約款上の制約

原告らの本件における入院保険金及び通院保険金については、本件事故後において、単に入院ないしは通院をすれば、保険会社から原告らに対して、入院ないし通院保険金が支払われるのではなく、次のような約款上の制約がある。

(一) 積立普通傷害保険及び普通傷害保険について

(1) 業務支障性について

右各保険の傷害に伴う「入院保険金」及び「通院保険金」支払条項には、次のとおりの記載がある。(ただし、関係する部分のみ。)

(a) 入院保険金について

傷害保険普通保険約款第七条

(第一項)

当会社は、被保険者が第一条(当会社の支払責任)の傷害を被り、その直接の結果として、平常の業務に従事することまたは平常の生活ができなくなり、かつ、次の各号のいずれかに該当した場合は、その期間に対し、事故の日からその日を含めて一八〇日を限度として、一日につき、保険証券記載の入院保険金日額(以下「入院保険金日額」という。)を入院保険金として被保険者に支払います。

① 入院(医師による治療が必要な場合において、自宅等での治療が困難なために、病院または診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいいます。以下同様とします。)した場合

② (略)

(b) 通院保険金について

通院保険金支払特約条項第一条

(第一項)

当会社は、この特約により、被保険者が傷害保険普通保険約款(以下「普通約款」といいます。)第一条(当会社の支払責任)の傷害を被り、その直接の結果として、平常の業務に従事することまたは平常の生活に支障が生じ、かつ、通院した場合は、その日数に対し、九〇日を限度として、一日につき、保険証券記載の通院保険金日額を通院保険金として被保険者に支払います。ただし、平常の業務に従事することまたは平常の生活に支障がない程度になおったとき以降の通院に対しては、通院保険金を支払いません。

(第二項)

前項にいう通院とは、医師(被保険者が医師である場合は、被保険者以外の医師をいいます。以下同様とします。)による治療が必要な場合において、病院または診療所に通い、医師の治療を受けること(往診を含みます。)をいいます。

(c) 右のとおり、被保険者が入院保険金もしくは通院保険金を請求するには入院もしくは通院という事実が存するだけでは不十分であり、「傷害」の直接の結果として、「平常の業務に従事することまたは平常の生活ができなくなったこと」(業務支障性)を、請求原因として積極的に主張し、かつその事実を立証する必要がある。

(2) 他覚症状の有無

(a) 他方、被保険者が「頸部症候群」ないし「腰痛」の傷害を負った場合で、他覚症状がないときには、「保険金を支払わない場合」として、次のとおり、各保険約款に記載されている。

傷害保険普通保険約款第三条

(第一項)

当会社は、原因の如何を問わず、頸部症候群(いわゆるむちうち症)または腰痛で他覚症状のないものに対しては、保険金を支払いません。

(b) したがって、被保険者が、頸部症候群ないし腰痛であって、他覚症状のないときには、被保険者らがどれほど入通院をしようが、保険金支払をなす義務は存しないものである。

(二) PAP自動車総合保険について

(1) 右の保険における「医療保険金」(入院保険金と通院保険金を含む。)の支払については、次のとおりの記載がある。

搭乗者傷害条項第八条

(第一項)

当会社は、被保険者が第一条(当会社の支払責任)の傷害を被り、その直接の結果として、生活機能または業務能力の滅失または減少をきたし、かつ、医師の治療を要したときは、平常の生活または業務に従事することができる程度になおった日までの治療日数に対し、次の各号に規定する金額を医療保険金として被保険者に支払います。

① 病院または診療所に入院した治療日数に対しては、その入院日数一日につき保険金額の一〇〇〇分の1.5、ただし、一五〇〇〇円を限度とします。

② 病院または診療所に入院しない治療日数(病院または診療所に通院して医師の治療を受けた日数をいいます。)に対しては、その治療日数一日につき保険金額の一〇〇〇分の一、

ただし、一〇〇〇〇円を限度とします。

(第二項)

前項の医療保険金の支払は、いかなる場合においても、事故の発生の日から一八〇日をもって限度とします。

(2) よって、右保険についても、医療保険金を請求する側で「業務支障性」について主張し、立証する必要がある。

四  本件の争点

1  本件事故は、原告ら主張のとおり原告甲野の過失によるいわゆる保険事故にあたるか否か。

それとも、原告らが故意に招致したものか否か。

(原告らの主張5、被告らの主張2)

2  原告甲野および原告乙川の受傷の程度及び治療の実態はどのようなものであったか。

(原告らの主張1)

3  本件事故により、原告らには最終的にいかなる内容の保険金請求権が発生するか。

(原告らの主張2、3、4、被告らの主張8)

4  被告ら主張の各告知義務違反・通知義務違反の有無

(被告らの主張1、原告らの主張6)

5  本件各保険契約は公序良俗違反となって無効なものとなるか。

(被告らの主張3)

6  本件各保険契約は詐欺無効となるか否か。

(被告らの主張4)

7  本件各保険契約は、危険著増により失効したものといえるか否か。

(被告らの主張5)

8  本件各保険契約は、被告ら主張の特別解約権により遡及的に解約されたか否か。

(被告らの主張6)

9  原告らの本件各保険金請求は、権利濫用となるか否か。

(被告らの主張7)

第三  争点に対する判断

一  本件事故がいわゆる保険事故に当たるか(争点1)について

前記の争いのない事実のとおり、本件事故が発生したことについては当事者間に争いがないが、本件事故が、原告ら主張のとおり原告甲野の過失による偶然な事故であるか否か、あるいは、被告らの主張のとおり原告甲野が故意に招致した事故であるかについて検討する。

そこで、右に関連する事項について、それらの項目別に以下のとおりの検討を加えるが、前記の争いのない事実に加えて、別紙書証目録記載の各書証、証人牧野久子及び証人冨安充裕の各証言、原告甲野本人及び原告乙川本人の各供述(ただし、各供述ともにいずれも後記の採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、各項目に関して、次の各事実が認められる。

1  本件事故について

(一) 本件事故は、その日時としては、平成五年一〇月七日午前一一時五〇分ころという昼間の事故であったこと、

(二) 本件事故の態様については、

(1) 原告甲野は、本件事故について、本件事故後の実況見分調書において、次のとおり指示説明していること、

① 危険を感じた地点は、衝突地点の4.9メートル手前であり、その地点でブレーキをかけたこと、

② 衝突したのは、危険を感じた地点から2.4メートル進行した地点であり、甲車が停止したのは、衝突してから一メートル進行した後であること、

③ 原告甲野は、本件道路を西方向から東方向に向けて進行していたが、信号交差点(以下「本件甲交差点」という。)で停車中の乙車(訴外大江正恭<以下「訴外大江」という。>運転)に追突したものであること、

(2) 本件事故現場の本件道路の状況としては、本件道路は東西に走る片側幅員4.7メートルの片側一車線の道路であり、現場付近は直線道路であって、その見通しは極めて良好であること、

そして、本件道路はいわゆる幹線道路であって、本件事故当時の交通量は相当多いものであること、

また、原告甲野が本件事故前に右折した交差点(以下「本件乙交差点」という。)から本件甲交差点までの距離は97.4メートルであること、

(3) したがって、原告甲野の甲車の追突状況としては、本件乙交差点から本件甲交差点に向かって九〇メートル以上も走行しながら(毎時三〇キロメートルで走行すると約10.8秒間、毎時四〇キロメートルで走行すると約8.1秒間)、原告甲野は、前記のとおり衝突地点の4.9メートル手前まで乙車には気付かず、追突したことになること、

これらのことから、原告甲野の追突に至るまでの前方不注視の状況について(その弁解)は、きわめて不合理であること、

(4) 右に関連して、本件甲交差点にある信号機についても、原告甲野は、本件道路付近をよく通行すると供述しながら、右信号機に気付いていないなどときわめて曖昧な供述をしていること、

この点については、甲車に同乗していた原告乙川が、現実に赤信号で停車している乙車を認識していることと対比すると、一層原告甲野の供述は不自然であること、

(5) さらに、甲車が乙車に追突する際に、甲車内には、原告乙川の他に二名の者が同乗していたが、衝突直前に危険を察知する声を発した者がいたことについての供述が認められないこと、

(三) 本件事故の原因についての原告らの供述について、

原告甲野及び原告乙川が、本件事故直後に診察を受けた武田医院の診断書及び診療録の記載によれば、原告両名ともに、「病または受傷の原因」について、「車に乗って急発進、他の車に衝突した」と記載されており、原告らの本件における主張ないしは供述とは明らかに異なっていて、きわめて不自然であること、

(四) 本件事故全体に関連する不自然な点として、

(1) 本件事故が発生した当日は、被告三井海上に付保されていた本件9保険契約の保険期間の最終日である平成五年一〇月七日であったこと、

(2) 本件事故による受傷の状況についても、甲車に乗り合わせていた原告甲野及び原告乙川を含む四名は、いずれも本件事故により創傷などの傷害を負った形跡が認められないこと、原告甲野の供述によれば、話に夢中になっていたため、前方不注視となって追突したものであり、しかも、シートベルトは着用していなかったというのであるから、何らかの創傷等の受傷があって然るべきところ、これらの傷害の事実を立証する資料がまったくないこと、

2  保険契約締結の経緯等について

(一) 原告甲野及び原告乙川は、平成五年一〇月七日の本件事故発生前の五か月の間に、本件事故を被保険事故として四つの新たな保険に加入していること、すなわち、

(1) 平成五年五月一九日に、原告甲野及び原告乙川は、被告エイアイユーの本件8及び11保険契約に加入したこと、

右保険は、訴外有限会社インシュアランスタマガワの訴外牧野久子(以下「訴外牧野」という。)を介して締結したものであるが、訴外牧野の知人を介して、原告甲野から加入したものであること(すなわち、この契約締結以前に訴外牧野は原告甲野とは面識はなかったこと。)、

(2) 平成五年九月八日に、原告甲野及び原告乙川は、被告東京海上の本件2及び5保険契約に加入したこと、

右保険は、訴外冨安充裕(以下「訴外冨安」という。)を介して加入したものであるが、その経緯としては、本件事故前に原告甲野の次男甲野二郎(以下「次男二郎」という。)の保険事故が発生したことから、原告甲野側から、掛け捨ての安い保険を求めて、原告甲野が積極的に加入したものであること、

(3) 平成五年九月一五日に、原告甲野及び原告乙川は、被告同和火災の本件10保険契約に加入したこと、

(4) そして、平成五年九月三〇日に、原告甲野及び原告乙川は、入院日額金五〇〇〇円(さらに入院を六〇日以上継続し、その後も引き続き通院または療養が必要なときは、通院療養付加金一〇万円が加算される。)の郵便局の簡易生命保険に加入したこと、

右保険は、その保険料が、原告甲野分として金一四万五二〇〇円、原告乙川分として金二一万七二〇〇円と高額であって、しかも、右保険の帰趨としては、平成六年二月一四日に、本件事故に基づく保険金として原告甲野が金四八万円、原告乙川が金四五万五〇〇〇円の支払を受けて、平成七年九月八日に失効していること、

(二) 原告甲野及び原告乙川は、右の各保険に加入する前に、既に十分な保障を得ることができる保険に加入していたこと、すなわち、

(1) 原告甲野は、

① 平成元年一二月一日、訴外大同生命の入院特約付定期保険、

② 平成四年八月一日、被告エイアイユーの本件7保険契約、

③ 平成四年九月二九日、被告東京海上の本件1保険契約、

④ 平成四年一〇月七日、被告三井海上の本件9保険契約、

⑤ 平成五年三月七日、被告東京海上の本件3保険契約、

にそれぞれ加入しており、これらの保険契約で、入院日額金六万二〇〇〇円、通院日額金三万七二〇〇円の支払を受けることができることとなっていたこと、

(2) 他方、原告乙川は、

① 平成四年七月二二日、訴外大同生命の入院特約付定期保険、

② 平成四年八月一日、被告エイアイユーの本件6保険契約、

③ 平成四年九月二九日、被告東京海上の本件4保険契約、

④ 平成四年一〇月七日、被告三井海上の本件9保険契約、

⑤ 平成五年三月七日、被告東京海上の本件3保険契約、

にそれぞれ加入しており、これらの保険契約で、入院日額金五万六〇〇〇円、通院日額金三万一〇〇〇円の支払を受けることができることとなっていたこと、

(3) それにもかかわらず、原告甲野及び原告乙川は、前記の(一)の各保険契約に加入し、結局は、原告甲野は、これら全部の保険契約で、入院日額金一一万二〇〇〇円、通院日額金六万七〇〇〇円の支払を受けることができることとなっていたこと、また、原告乙川は、これら全部の保険契約で、入院日額金一〇万六〇〇〇円、通院日額金六万一〇〇〇円の支払を受けることができることとなっていたこと、

(三) 本件保険契約の特徴及びその他の事情としては、

(1) 傷害保険は、比較的低額で加入することができ、保険事故が発生した場合、保険金が被保険者の保険事故による具体的な損害額とは関係なく契約所定の一定の金額が支払われる定額給付方式の保険であるところ、原告甲野及び原告乙川が加入した保険はこの傷害保険であり、しかも本件事故前五か月の間に加入した三本の傷害保険のうち二本は、「交通事故」傷害保険であって、保険事故が「交通事故」に限定される反面保険料は半額となっているものであること、

(2) 原告甲野及び原告乙川は、鳶、土工、機械据付等を業とする原告会社を経営し、特に原告乙川は、現場に行って従業員と同様に働いていたというのであるから、不慮の事故が発生した場合の経済的損害の填補という保険本来の目的に対比すれば、保険事故が「交通事故」に限定される交通事故傷害保険に加入するのは不合理であると解されること、

(三)原告甲野及び原告乙川は、訴外冨安に保険のことはすべて任せるようになり、平成二年ころには、損害保険はすべて訴外冨安に一本化していたのに、本件事故直前には、前記(一)のとおり訴外冨安以外の代理店において加入したり、郵便局の簡易生命保険に加入していること、

(四) 原告らの支払保険料については、

(1) 原告甲野及び原告乙川が、本件事故発生前の一年間に負担していた保険料は、

① 平成四年八月一日加入の被告エイアイユーの本件6及び7保険契約につき、平成四年一〇月分から平成五年九月分までの金一七万九八八〇円、

② 平成四年九月二九日加入の被告東京海上の本件1及び4保険契約につき、平成五年九月二九日に更新して金一六一万三〇四〇円(家族二名分を含む。)、

③ 平成四年一〇月七日加入の被告三井海上の本件9保険契約につき、金四万九二〇〇円(家族一名分を含む。)、

④ 平成五年三月七日加入の被告東京海上の本件3保険契約につき、金一九万〇四八〇万円、

⑤ 平成五年五月一九日加入の被告エイアイユーの本件8及び11保険契約につき、金七万一二三〇円(家族三名分を含む。)、

⑥ 平成五年九月八日加入の被告東京海上の本件2及び5保険契約につき、金八万八八〇〇円、

⑦ 平成五年九月一五日加入の被告同和火災の本件10保険契約につき、金五万七四〇〇円(家族二名分を含む。)、

⑧ 平成五年九月三〇日加入の郵便局簡易生命保険契約につき、金三六万二四〇〇円、

で、その支払保険料総額は金二六一万二四三〇円となること、

特に、本件事故発生前の一か月足らずの間に、原告甲野及び原告乙川は、右②、⑥、⑦及び⑧の保険料合計金二二一万一四六〇円を支払っていること、

(2) このように、原告甲野及び原告乙川は、通常の必要性の範囲を著しく超える保険に加入し、それらの保険加入のために著しく高額の保険料を支払っているものであるが、そのことについて、何ら合理的な説明はなされていないこと、

3  同種保険金の受領について

原告らは、本件保険金請求前においても、保険事故を理由として多額の保険金を請求して、これを受領しているものであるが、具体的には、

(一) 原告甲野は、平成五年三月三一日に自転車に乗っていて転倒し負傷したとして、武田医院に八八日間通院し、同年九月一〇日に被告東京海上に対して保険金請求書を提出して、同年一〇月四日に金八八万円の支払を受けるとともに、同時に、被告三井海上から金八八万円、被告エイアイユーから金六六万八七五〇円の支払を受けて、合計金二四二万八七五〇円の保険金を受領していること、

なお、右の際の原告甲野の受傷は他覚的症状のない頸椎捻挫であったこと、

(二) 続いて、次男二郎は、平成五年五月二六日に自転車に乗っていて転倒して骨折(負傷)したとして、長屋病院に一七日、武田医院に五六日間通院し、同年一一月一五日に被告東京海上に対して保険金請求書を提出して、同年一一月三〇日に金七二万円の支払を受けるとともに、同時に、被告エイアイユーから金六一万二〇〇〇円の支払を受けて、合計金一三三万二〇〇〇円の保険金を受領していること、

4  原告甲野及び原告乙川の治療の実態について

(一) 原告甲野の治療について

(1) 原告甲野は、結果として、「頸椎捻挫、外傷性頸腕症候群、頭部胸部腰部挫傷」の診断名により、

① 武田医院

通院 平成五年一〇月七日

② 権田脳神経外科

入院 平成五年一〇月七日から同年同月一二日まで

③ 長屋病院

入院 平成五年一〇月一二日から同年一二月二五日まで

の入院八〇日の治療(その後に通院期間として九一日にわたる治療)を受けたことになっていること、

(2) しかしながら、原告甲野は、権田脳神経外科に入院した当日(平成五年一〇月七日)から、荷物を取りに外出した後、外泊を希望して帰宅していること、さらに、翌日の平成五年一〇月八日も、二回外出したり、外泊をしていること、

(3) 右の入院期間中の行動につき、看護記録によれば、原告甲野は、平成五年一〇月には三回、同年一一月には六回、同年一二月には四回それぞれ外泊しており(右は外泊の回数であって、その他に数多くの外出がある。)、ほとんど院外にいる時間の方が多くなっていること、

したがって、本来の入院の目的である安静による治療とは程遠い状況であること、

そのうえ、原告甲野は、その供述においても、右の外泊及び外出の理由について、何ら合理的な説明をしていないこと、

(二) 原告乙川の治療について

(1) 原告乙川は、結果として、「頸椎捻挫、外傷性頸肩腕症候群、頭部胸部腰部挫傷」の診断名により、

① 武田医院

通院 平成五年一〇月七日

② 権田脳神経外科

入院 平成五年一〇月七日から同年同月一二日まで

③ 長屋病院

入院 平成五年一〇月一二日から同年一二月二〇日まで

の入院七四日の治療(その後に通院期間として九二日にわたる治療)を受けたことになっていること、

(2) しかしながら、右の原告乙川の権田脳神経外科への入院については、武田医師の指示によるものではなく、その入院は原告乙川が希望した旨の診断書上の記載があること、

(3) しかも、原告乙川は、権田脳神経外科に入院した当日(平成五年一〇月七日)から、外泊を希望して帰宅していること、

(4) 右の入院期間中の行動につき、看護記録によれば、原告乙川は、平成五年一〇月には三回、同年一一月には五回、同年一二月には三回それぞれ外泊しており(右は外泊の回数であって、その他に数多くの外出がある。)、ほとんど院外にいる時間の方が多くなっていること、

したがって、本来の入院の目的である安静による治療とは程遠い状況であること、

そのうえ、原告乙川は、その供述において、右の外泊及び外出の理由については、原告会社の仕事の段取りをつけるためであったと説明しているが、このことは、原告乙川はほとんど通常と変わりのない業務を処理できていたのであって、かえって、前記の治療につきその入院の必要性はまったくなかったものといわざるをえないこと、

(三) さらに、原告甲野及び原告乙川の前記の外泊の実態を照らし合わせると、その外泊した日時が原告甲野と原告乙川とでほとんど一致しているばかりでなく、それが日曜日及び祝日と重なっていること、

<以上の認定に反する原告甲野本人及び原告乙川本人の各供述は、前掲の他の各証拠に照らして、いずれもこれらを採用することはできない。>

二  判断

1 以上一で認定した各事実を総合すれば、本件事故は、原告ら主張のような原告甲野の過失によって発生したものとはとうてい認め難く、原告らが、故意に招致した事故であると推認するのが相当である。

そして、本件全証拠によるも、他に、本件事故が、原告甲野の過失による偶然の事故である旨の原告らの主張事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、前記の被告らの主張2のとおり、本件事故は「急激かつ外来の事故」ではなく、被告らは、原告らに対して、本件事故に関して、本件各保険契約に基づく各保険金の支払義務を負っていないものというべきである。

2  そうすると、その余の各争点について判断するまでもなく、原告らのすべての本訴請求はいずれもその理由がない。

三  結論

以上の次第で、原告らのA事件、B事件、C事件、D事件及びE事件の各本訴請求は、いずれも失当であってその理由がないので、これをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官安間雅夫)

別紙事故目録

1 日時 平成五年一〇月七日午前一一時五〇分ころ

2 場所 愛知県豊橋市花田町字石田二五―一先道路上

(以下「本件事故現場または本件道路」という。)

3 甲車 普通乗用自動車(豊橋五五て<ナンバー略>)

運転者 原告甲野

同乗者 原告乙川

訴外松下清高

訴外福沢昭一

4 乙車 普通乗用自動車(豊橋五五み<ナンバー略>)

運転者 訴外大江正恭

5 態様 甲車が乙車に衝突した。

別紙書証目録<省略>

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